日本刀は鈩でつくられる玉鋼を材料にして、私達の祖先が長い年月にわたり探求し続けて完成した世界に誇る芸術です。折れず、曲がらず、良く切れるという三つの条件に加えて刀身の地肌や刃文の美しさ、ゆるやかに孤を描く姿は、戦いの道具としての使命を終えた現代においても、その芸術性は高く評価され、その意義は失っていません。現在、日本刀剣と呼ばれるものには、太刀、刀、脇差、短刀、薙刀、槍などがあります。
「太刀」:平安時代末期(12世紀)から室町時代前期(14世紀)にかけて流行する刃長2尺(60cm)以上と長く、反りの大きいものです。博物館では刃を下にして飾っています。これは騎馬戦が戦闘の中心であった時代に主力であったもので、馬上で抜き易いように刃を下にして腰につるして用いていたからで、作者の銘は吊るした場合の外側にあります。
「刀」:刃長2尺(60cm)以上で太刀を同じですが、室町時代中期から江戸時代末期まで太刀に代って主力となった刀剣で、身につけるときは刃を上にして腰に差しました。これは戦闘が騎馬戦から歩兵戦に変わり、抜きざまに切れるように工夫された結果と考えられます。銘は腰に差した場合に外側に切られており、展示では刃を下に向けて飾っています。
「脇差」:刃長1尺(30cm)以上、2尺未満で、刀と同様に刃を上にして腰に差します。
「短刀」:刃長1尺以下の短いもので、大部分は平造り。反りは棟方向に反るものと、内反り(刃の方向に俯く)、無反りの3種類がある。
「剣」:長さに関係無く両刃で左右同形のものをいう。
このように、一口に日本刀剣といっても時代の写り変わりによって形態や呼び名が変わります。博物館に展示する日本刀剣の中には苛烈な戦いをくぐり抜けたものもある筈です。そうした時代を越えてなお、光り輝く多くに刀剣をとおして、その魅力をじっくり味わっていただければ幸いです。
素材:素材は大別して鋼、銑、鉄の3種類に分類される。鋼のうち、とくに炭素量が適量ですぐれた品質のものを、今日では「玉鋼」と呼んで直接、日本刀の素材として使用される。銑、鉄はそれぞれ脱炭、吸炭させ鋼に変えて(この技術を「おろし鉄」と呼ばれる)使用される。以下は玉鋼を使用した例を示す。
水減し(みずへし):鋼を炉で熱して薄く打ち延ばし、水で冷やす。
小割り(こわり):2~2.5cm程度の大きさに打ち砕き、割れ具合、破面観察などにより良質なものを選別し、皮鉄(かわがね)の材料として準備する。
積み沸かし(つみわかし):鋼を赤めて数回折り返し薄く延ばしてテコ棒の先に鍛接しテコ台をつくる。先に小割りした鋼をテコ台の上に行儀よく積み重ねる。和紙で包み、泥水をかけ、わら灰をまぶし、炉の中でじっくり時間をかけて沸(わ)かす(充分に加熱する)。
折り返し鍛錬(おりかえしたんれん)-下鍛え(したぎたえ):充分に鋼が沸くと、金敷の上に取り出し、崩れないように形を整え,加熱し大槌で打ち延ばしタガネを入れて2枚に折り返す。この折り返し鍛錬は12~15回程度行われる。前半を下鍛えといい、通常一文字鍛え、十文字鍛えなど単純な折り返しである。
折り返し鍛錬(おりかえしたんれん)-上鍛え(あげぎたえ):上鍛えには、色々な方法がある。短冊鍛え、柝木(たくぎ)鍛え、木葉鍛えなどは代表的な方法。下鍛えの終わった各々の材料を組合わせて積み上げ鍛錬する。それにより板目や杢目、綾杉など地金の変化を引き出す。以上で皮鉄ができる。
心鉄(しんがね):心鉄は刀が折れないように、芯の部分にいれる地鉄。炭素量の少ない鋼、または鉄が用いられ、数回程度の折り返し鍛錬して造られる。
造り込み(つくりこみ):炭素量の多い硬い皮鉄で炭素量の少ない心鉄を包み込んで複合構造をつくる。これにより「折れず曲がらずよく切れる」が実現する。甲伏せ、四方詰め、本三枚など色々な構造がある。
素延べ(すのべ):加熱し、槌で叩いて刀の長さに打ち延ばす。テコをはずす。
火造り(ひづくり):整形しようとする部分を赤め、少しずつ刀の形に近づける。まず切先(きっさき)を整え、刃の部分を薄く叩き出し、棟側も少し薄くして鎬(しのぎ)の線を打ち出す。焼入れ時に加わる反りを見越して少し反りを付け、茎(なかご)を仕立てる。ほとんど刀の姿になるところまで整形する。
生砥ぎ(なまとぎ):セン(鋼を削るカンナの一種)で肌を削り、ヤスリで擦って刀の姿を整える。
土置き(つちおき):刃先には良く焼きが入り、棟側には焼きが入らないよう焼入れ前に刀の表面に焼き刃土を塗る。その境目にできる色々な模様の刃文を想定して土の配合具合や塗り方を工夫する。
焼入れ(やきいれ):刀全体を加熱し、水で冷却する。このとき、焼き刃土の濃淡で刃先は速く冷やされて硬い組織(マルテンサイト)になり、また膨張するために日本刀独特の反りができる。焼戻しは炎にかざし刀身の温度を150℃程度まで上げて刀に粘りを与える(「合いをとる」という)。
鍛冶砥ぎ(かじとぎ)-銘切り(めいきり):刀匠自らが粗砥ぎして、出来映えを確認し、銘を切り込む。
研磨(けんま):砥ぎ師により地肌模様、刃文などの美的要素を表現し、日本刀に仕上がる。