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砂鉄

たたら製鉄において、中国山地の恵まれた立地条件の第一は砂鉄です。しかし、国内最古の製鉄遺跡とされる岡山県総社市の千引カナクロ谷遺跡をはじめ初期の製鉄炉は鉄鉱石を原料とするものでした。
古墳時代~奈良時代にかけて、鉄鉱石を用いた製鉄遺跡は中国山地の山陽側、近畿地方・滋賀県で発見されていますが、平安時代以降では、全国的に砂鉄原料に代わっています。
砂鉄は地下のマグマが冷却して形成した火成岩中に含まれるチタン磁鉄鉱やフェロチタン鉄鉱が風化作用により母岩から分離したものです。このうち、フェロチタン鉄鉱はヘマタイト(Fe
2O3)とイルメナイト(FeTiO3)からなり、チタン分(TiO2)が20~30%と多く含まれ、還元には高温を必要とし、また還元しても鉄の歩留まりが低かったりするため製鉄原料としては不向きです。
中国山地で採取されるたたら製鉄用の砂鉄は、真砂(まさ)砂鉄と赤目(あこめ)砂鉄の2種類があります。真砂砂鉄は酸性の花崗岩、花崗斑岩、黒雲母花崗岩などを母岩として、磁鉄鉱系を主成分とする砂鉄で、不純物の少ない優れた鉄源ですが、赤目系に比べて母岩中の含有量が約0.5~2%と低く、また融点が高いなど使い難い欠点があります。中国山地の山陰側が主産地で、この真砂砂鉄を使って直接鋼をつくる鉧押し法(三日押し法)を開発して日本刀の原料となる鋼(玉鋼)を生産し、日本独特の和鋼の生産技術を支えていく発展につながりました。
一方、赤目砂鉄は、塩基性の玄武岩、安山岩、閃緑岩などを母岩として、フェロチタン鉄鉱の混合したもので、チタンや不純物が多い特徴がありますが、母岩中の含有量が約5~10%と高く、また溶け易いので各地で多く使われました。しかし、たたらで鋼にすることは難しく、もっぱら銑押し法(四日押し法)で銑にされました。(山陰地区では、真砂砂鉄を使って鉧押し法、銑押し法の両方が行われました。
これらの砂鉄の見分け方は、真砂砂鉄は光沢のある漆黒色、やや粒が大きく分離しやすいが、赤目砂鉄は、粒がやや細かく、色は脈石によって赤味がかり、分離し難いという特徴があります。その他、砂鉄の良し悪しの鑑別方について種々の口伝が伝えられていますが、「鉄山秘書」(下原重仲)では、良い鉄を吹くには砂鉄が第一に重要といい、「粉鉄(砂鉄)を第一にする事は鉄山の元也、此一物悪くては不成」と述べています。
「鉄穴流し」でも述べたように、砂鉄は風化した母岩から直接採取したものを山砂鉄といい、その他、採取する場所によって、川砂鉄、浜砂鉄と称しますが、下流に下るほどいろいろの種類の砂鉄が混在するので下等とされ、鉧押し法用には使用されませんでした。

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真砂砂鉄の組織(400倍)
A:マグネタイト B:イルメナイト

 

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赤目砂鉄の組織(400倍)
A:マグネタイト B,C:イルメナイト D:ムライト

砂鉄の化学組成の例(wt%)

 

T・Fe FeO Fe2O3 SiO2 CaO MgO Al2O3 TiO2 V2O5 P S
真砂砂鉄 (中倉) 59.00 24.72 64.45 8.40 2.24 1.54 2.34 1.27 0.258 0.064 0.009
赤目砂鉄 (楮谷) 52.07 19.55 52.71 14.50 2.68 0.94 4.98 5.32 0.369 0.095 0.026