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たたらの操業(鉧押し法)

たたら製鉄は、原料砂鉄を木炭の燃焼によって還元(製錬)し、鉄や鋼を得る方法です。その製法は鋼を主として含む鉧(けら)塊をつくる鉧押し法(三日押し法)と銑(ずく:銑鉄)をつくることを目的とする銑押し法(四日押し法)の2通りがあります。
銑押し法の技は今日では伝わってなく、詳細は不明ですが、鉧押し法は、昭和初期の「靖国たたら」の例でみると、製錬作業は「こもり」、「こもり次」、「上り」、「下り」の4段階に分かれ、全体で約70時間を要し、各段階で砂鉄の配合・装入量や送風などを加減します。たたら操業はこれに下灰、築炉などの準備作業の1日が加わり、この1回の操業サイクルを一代(ひとよ)と称します。
〔こもり期:約7.5時間〕
送風開始後、はじめは木炭のみ装入し、その後、低融点で還元性の良いこもり砂鉄と木炭を交互に装入し、次第に砂鉄の量を増やしていきます。砂鉄は還元されて釜土炉壁と反応しノロ(鉄滓、鉱滓、スラグ、金糞など色々な呼び名があります)をつくり、その際の発熱反応により炉内の保温がよくなり、ノロが中央の湯地穴から出始めます。
〔こもり次期:約7.5時間〕
製錬状態はかなり進行してきたが、炉況はまだ不十分なので、砂鉄をこもり次砂鉄(こもり砂鉄と真砂砂鉄を混合)にかえ、炉内の風圧を徐々に高め炉内温度を上げていきます。炉底にはノロだけでなく銑もできます。
〔上り期:約18時間〕
鉧種をつくり成長させるために、装入砂鉄を真砂砂鉄にかえます。炉内の温度も上昇し炉況も活発になり炎の色は段々と光を帯びて山吹色に高く輝きます。炉底の炉壁も次第に喰われ鉧もそれにつれて成長します。鉧の成長で中央の湯地穴はふさがるので左右の穴からノロと銑を流出させます。
〔下り期:約36時間〕
炉内の状況は最高潮になり、炉温は羽口面で1500℃程度になります。鉧をさらに成長させるために、真砂砂鉄の装入間隔を短く、装入量も多くします。炉壁は激しく侵食されてうすくなり、もはや作業を続けることが出来なくなります。最後の約1時間は木炭のみを燃焼させ、送風を止めて炉を壊し鉧塊を取り出します。

たたらの炉内反応については諸説ありますが、一般に、簡単には次のように考えられます。まず、酸化鉄である砂鉄(Fe3O4)は、木炭の燃焼によって発生する一酸化炭素ガス(CO)の還元作用により比較的容易に酸化第一鉄(FeO)になります。そして、炉底部では非常に高温となっているため更に還元されて金属鉄(Fe)となり、1部は釜土炉壁(主成分:SiO2)と反応してファイヤライト(2FeO・SiO2)となりノロを生成します。還元を速くするためには、温度およびCO濃度(CO/CO2比)を高めることですが、送風が強いと温度は上がりますがCOは減少(CO2は増加)し、逆に送風が弱いとCOは増加するが温度が下がって還元は進まなくなります。これらの理論を知るはずもない先人達は、立ち上がる炎の状態やホド穴から炉内を観察して、長年の経験と勘で鞴の調子を微妙に変えてCO濃度の雰囲気を調節しました。
また、ノロの生成反応は発熱反応であり炉内の温度保持に有効であると同時に、ノロは不純物を取り込み排出する役目をするので、操業の成否は良好なノロの生成にあるともいわれ、釜土の侵食は重要な意味をもっているのです。
俗に、「一釜、二土、三村下」といわれ、たたら製鉄を成功させる秘訣が釜つくり=釜土材質の選定にあることを示しています。

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